PROJECT
長谷川光二 蔵書リスト
長谷川光二の蔵書目録作成についての覚書き
長谷川光二は明治32年(1899年)、日本橋の江戸中期から続く老舗箪笥店の次男として生まれる。兄・伝次郎は後に日本人として初めてチベットの写真集を出版する写真家・冒険家である。
6歳、高等師範学校入学。先輩に実業家で民俗学者の渋沢敬三や法哲学者の尾高朝雄らがいた。東京商業高等学校(現・一橋大学)卒業間近の大正12年(1923年)、25歳の時に関東大震災にあい、商大研究科を退学。震災で卒業論文ウィリアム・モリスを消失。同年、北海道野付村に兄伝次郎と弟堅三とともに入植。伝次郎、タゴール一族が経営するインド・ビスワバラティ大学芸術科へ留学。
昭和3年の春、30歳の時に釧路国阿寒郡舌辛村(現・鶴居村)チルワツナイに、妻道子、弟堅二らと共に入植。自宅を自ら設計、建築。牧場経営、農業などで自給自足生活を送る。3人の子供たちは遠いこともあってか学校に行かせず、両親が教える。
昭和4年(1929年)石川三四郎、養女望月百合子と来訪。夏、後の彫刻家舟越保武夫人で舟越桂の母になる13歳の坂井道子が兄らと牧場に滞在。兄伝次郎、『ヒマラヤの旅』刊行。
昭和8年、満州から帰国した友人東海林太郎来訪。昭和11年(1936年)、舌辛村から鶴居村として分村。昭和20年(1945年)47歳の時、空襲を逃れるため釧路から帰ってきた家族と終戦を迎える。翌年東京商業高等学校で先輩だった中村為治が約1年間、牧場に滞在する。中村は第一高等学校で川端康成と同級。商科大学の予科教授になったが45歳で辞職。長野県乗鞍高原に隠棲。農業と翻訳で生活する。1967年中部女子短期大学の教授となる人物。ロバート・バーンズ、キップリング詩集やマーク・トウェインの翻訳がある。
昭和22年(1949年)には中学の後輩、市原豊太が来訪。市原は東京帝国大学仏文学科卒業後、東大教養学部教授や獨協大学学長代行などを務めた。翻訳としてはパンジャマン・コンスタンの『アドルフ』や井上究一郎などとの訳のプルーストの『失われた時を求めて』などがある。市原の付属中学の同級生には寺田寅彦の弟子となる地球物理学の坪井忠二やフランス文学者の中島健蔵などがいる。市原は昭和26年にも再訪。俳諧連歌などを作っている。
昭和30年(1955年)、妻道子は北海道学芸大学(現教育大学)釧路分校のピアノ講師となる。妻や子供が釧路、東京に出るが一人牧場で生活する。昭和30年(1955年)、久々に上京し、小宮山量平の案内で電電公社総裁になった先輩の渋沢敬三を訪ねる。昭和37年(1962年)、長女達子の結婚式で上京、市原豊太、小宮山量平らと会う。
昭和45年(1970年)白内障を患い手術を受け回復する。夏は一人で牧場、冬は家族のいる釧路で生活を続ける。この頃、山道に迷った画家佐々木栄松が牧場を訪問。彼の著作『湿原のカムイ』で触れる。
昭和50年(1975年)2月5日、急性肺炎と心不全で釧路市立病院で死亡。享年76歳。
(参考;伊藤重行『釧路湿原の聖人 長谷川光二』)
長谷川光二 蔵書 洋書編
(「鶴居村ふるさと情報館 長谷川所蔵図書一覧」より作成)
長谷川光二が舌辛村(現鶴居村)に入植したのは1928年(昭和3年)、30歳の時。洋書の刊行年を見ると一橋大学時に購入したものもあるだろうが、洋書販売店(まだイエナ書店や近藤書店が無い時代だ)に注文したと思われるものも多い。直接海外の書店に注文していたのかもしれない。もちろんインターネットなどない時代だ。注文しても手に届くまでに2、3か月はかかっただろう。これだけの洋書を購入し、読んでいたという、大正末期から昭和初期のインテリゲンチャの知的好奇心に今更ながら驚く。
(ただし、図書一覧は光二が所有していた書物の全てではない。没後、家族が一部を
所有しているようだ。また、洋書などは友人の作家・吉田絃二郎から寄贈されたものも
多く含まれている)
関東大震災からの復興もとげ、時代はエロ・グロ・ナンセンスの流行になだれ込むが、蔵書からは卒論テーマのウィリアム・モリスはじめアーサー・シモンズ、W.B.イェイツなど、ソローなどは例外としてイギリスの社会思想家、象徴主義文学者、神秘主義者の書籍が多いことがわかる。それらは当時の最新流行だ。出版界では岩波文庫が創刊され、円本ブームも起こり、海外文学の名作全集も数多く出版された。世界の名著が雪崩を打って刊行され読者を魅了した。と言っても翻訳されていない書籍も当然多く、英語に堪能だった光二は翻訳を待てなかったのだろう。現在でも翻訳されてない作品が数多くある。
慨して文学系が多く、当時のもう一つの潮流である社会主義、マルクス主義をはじめ思想・哲学関連がほとんどないことも、この洋書目録からわかる特徴的である。
「トリスタンとイゾルデ 4幕劇」 アーサー・シモンズ 1917年
(英国の詩人、批評家、編集者。「象徴主義の文学運動」などの邦訳あり。ウォルター・ペイターやハヴロック・エリスに引き立てら、後にビアズリーと芸術と文学の融合を目指した定期刊行物「サヴォイ」を刊行する)
「現代英語教則本」 M.D.ベルリッツ 1907年
「世界のお馬鹿さんその他の詩」 アーサー・シモンズ 1906年
「学生のためのアメリカ文学の歴史」 W.E.シモンズ 1924年
「人類のありうべき未来その他のエッセイ/H.G.ウェルズ」 舟橋雄 研究社 1927年
「緑の木蔭で」 トマス・ハーディ 年不明
「資産家」 ジョン・ゴールズワージ 1921年
「アルフォンス・ドーデ エブリマンライブラリー」 アルフォンス・ドーデ 1921年
「異教徒とキリスト教徒の欲望 その起源と意味」 エドワード・カーペンター 1920年
(石川三四郎と親交のあった詩人・社会思想家。モリスとの親交あり)
「アーサー・シモンズ詩集 第二集」 アーサー・シモンズ 1919年
「サンダリング・フラッド 1巻」 ウイリアム・モリス 1914年
(モリスの遺作)
「フロス河の水車場」 ジョージ・エリオット 1925年
「ホメロスのイリアッド」 エドワード・スミス=スタンリー 1925年
「批評エッセイ」 マシュー・アーノルド 年不明
「ヘンリー・ライクロフトの私記」 ジョージ・ギッシング 年不明
「シャーロック・ホームズの冒険」 コナン・ドイル 年不明
「ウイックロー、ウエスト・ケリー、コネラマへの旅」 ジョン・ミリントン・シング 1912年
「ボートの三人男」 ジェローム・K・ジェローム 1889年
「高慢と偏見」 ジェン・オースティン 1798年
「海の狼」 ジャック・ロンドン 年不明
「世界のかなたの森」 ウィリアム・モリス 1924年
「社会の柱、幽霊、民衆の敵」 ヘンリック・イプセン 年不明
「シャーロック・ホームズの帰還」 コナン・ドイル 年不明
「空の戦争」H.G.ウェルズ 1798年
「レスビア、その他の詩」 アーサー・シモンズ 1920年
「ピエールとリュース」 ロマン・ロラン 1922年
「代表的演劇集」ジェームズ・マシュー・バリー 1922年
(ピーターパンの作者)
「リリュリ」 ロマン・ロラン 1920年
「我々は留まろうとした」 ドロシーS .マッカモン 1953年
「散文と詩 1856〜1870」 ウィリアム・モリス 1920年
「サンダリング・フラッド 第2巻」 ウィリアム・モリス 1914年
「 明るいショール」ジョゼフ・ハーゲシュマー 1923年
「 ガストン・ド・ラテゥール」ウォルター・ペイター 1922年
「アーミッシュの生活」 ジョン・A・ホステトラー 1952年
「ジェイソンの生と死」 ウィリアム・モリス 年不明
「 小さな大臣」 ジェームズ・マシュー・バリー 1897年
「 月の沈黙を友として」ウィリアム・バトラー・イエーツ 1918年
「自然 演説と講義」 ラルド・ワルド・エマーソン 年 不明 (ホイットマンやソローが影響を受けた思想家。超絶主義で知られる)
「オスカー・ワイルドの詩選集」 ロバート・ロス 1911年
「草の葉」 ウォルト・ホイットマン 1902年
「スケッチ・ブック」 ワシントン・アーヴィング 1819年
「ウォルフィング家の物語」 ウィリアム・モリス訳 1912年
「エッセイ集」 ジョージ・G-ロエイン 1925年
「世界のかなたの森」 ウィリアム・モリス 1913年
「追憶の詩」 アルフレッド・ロード・テニソン 年不明
「旅は驢馬を連れて」 A.L.スティーブンソン 1910年
「ストリンドベリの劇作」 エドウィン・ビョークマン
「カテリーナ エカテリーナ・イヴァノヴァの4幕」 ハーマン・バーンスタイン 1923年
「バルザックからの物語」 ジョージ・セインツベリー 1927年
「西の国のプレイボーイ 3幕」 ジョン・ミリントン・シング 1927年
「スティーブンソンによるアラビアンナイト」 アーチボールド・ウェッブ 年不明
「エミリー・ブロンテによる嵐ヶ丘」 シャーロット・ブロンテ 1921年
(転記ミスか?)
「DEN'S NEW FIRST GERMAN BOOK WOLTER LIPMAN」ウォルター・リップマン 1913年
(これは記述間違いか)
「空想対流行」 G・ K ・チェスタトン 1923年
「ロバート・バーンズとの1日」 メイ・バイロン 1921年
「ストラスフォード オン エイボン スケッチブック」 ゴードン・ホーム 年不明
「クール湖の白鳥」 W.E.イエィツ 1919年
「ギリシア語から翻訳したプルターク英雄伝」 ジョン・ラングホーン 年不明
「考える人間はクリスチャンになれるか?」 ジョン.C .ウェンガー 1950年
「あれこれ考えてみると」 G.K.チェスタトン 1919年
「黒いチューリップ アレクサンドル・デュマ」 A.A.ディクソン訳 年不明
「海の漁師 ビクトル・ユーゴー」 E.S.ホジソン 年不明
「レオナルド ダ ヴィンチ」 リチャード・ミューサー 1907年
[エブリマン・ライブラリー叢書]
「三銃士」 アレクサンドル・デュマ 1925年
「イオン 他4つのプラトンの対話編」 A.D.リンゼイ 1913年
「陽気なタルタラン、アルプスのタルタラン」 アルフォンス・ドーデ 1921年
「緋文字、小説」 ナタニエル・ホーソン 1919年
「モヒカン族の最期」 ジェイムズ・フェニモア・クーパー 1918年
「モンテ・クリスト伯 I、II」 アレクサンドル・デュマ 1918年
「ホーマーのイリアッド」 F.メリアン・スタウェル訳 1925年
「フロス河の水車場」 ジョージ・エリオット 1924年
[イギリス・アメリカの作家シリーズ タウニッツ版]
「ジキル博士とハイド氏、内地の船旅」 ロバート・ルイス・スティーブンソン 1886年
「誘拐されて」 ロバート・ルイス・スティーブンソン 1888年
「続ジャングル・ブック」 ラドヤード・キップリング 1897年
「マウンテン・ターバン」 リアム・オフラエティ 1929年
「ウォールデン 森の生活」 ヘンリー.D.ソロー 1899年
「学生と牧畜業者のための飼料と給餌」 ウィリアム・アーノン・ヘンリー&フランク・バロン・モリソン 1923年
「馬の感覚と感性」 クラスクレド 1926年
「乗馬とハンティング」 M.ホレス・へイエ 1910年
「現代の競走馬 順応、繁殖と遺伝」 P.E.リケット 1923年
「想像の肖像」 ウォルター・ペイター 1920年
「ロマン・ロラン 人と作品」 エデンとセダー・ポール 1921年
「ウィリアム・ブレイクの彫刻」 アーチボルド.G.B.ラッセル 年不明
「ギルシア彫刻 100のイラスト」ジョン・ワラック 1913年
「自叙伝 日々と夢」 エドワード・カーペンター 1921年
(ウィリアム・モリスと親しく、石川三四郎と親交のあった社会思想家)
「ウィリアム・シェクスピア全作品」 W.G.クラーク、W.A.ライト 1911年
「アーサーシ・モンズ詩集 I」ウィリアム・ハインマン 1919年
「都市、海岸そして島々」 アーサー・シモンズ 1918年
「真面目が肝心」 オスカー・ワイルド 1917年
「ウィリアム・ブレイクの詩作品」 ジョージ・ルートレッジ 1910年
「ドリアン・グレイの肖像」 オスカー・ワイルド 1926年
「ソローのカレンダー」 ラッセル・アニー・マーブル 1909年
「非社会的社会主義者」 バーナード・ショー 1914年
「彼女とアラン」 H.R .ハガード 1914年
「土地の成長」 クヌート・ハムスン 1923年
「アワーグラス その他の劇」 W.B.イェイツ 1919年
「ワーズワースの詩」 W.H.ハドソン 年不明
「ウォルター・ペイターのルネサンス」 アーサー・シモンズ 1919年
(この作品は不明)
「シリル・ダベンポート編集による芸術小論」 ネッタ・ピーコック 1913年
「新旧短篇小説」 C.アルフォンソ・スミス 1916年
「オリバー・ゴールドスミス評伝」 W.アービング 1929年
「レンブラント批評集」 オーガスト・ブレル 1902年
「ウィリアム・ブレイクの詩」 W.B.イェイツ 年不明
「W.B.イェイツの詩選集」 W.B.イェイツ 1913年
「輝く平原の物語」 ウィリアム・モリス 1924年
「セヴァストポリ物語」 レフ・トルストイ 1912年
「スラン」 A.E.ヴァン・ボークト 年不明
(珍しくSF)
「クオ・ヴァディス? へンリク・シェンクヴィッチ」 C.J.ホガース訳 1922年
「青い眼」 トマス・ハーディ 1921年
「美術と詩におけるルネッサンス研究」 ウォルター・ペーター 1925年
「詩と唄」 ロバート・バーンズ
「アントン・チェホフ 悲劇その他」 レイモンド・バントック 1926年
「ロマン主義その他のエッセイ」 ウォルター・ペイター 1950年
「ワーズワースの自伝的物語」 ? 1951年
「ユートピアだより」 ウィリアム・モリス 年不明
「ロセッティ 彼の詩」 フレデリック・F.ボアズ 1915年
「ジョアゼル モーリス・メーテルリンク」 アレクサンダー・テイシェイラ・デ・マトス訳
「熱狂的な友達」 H.G.ウェルズ 年不明
「乳搾り女のロマンチックな冒険」 トマス・ハーディ 年不明
「オギュースト・ロダン 彼の代表作」 ルドルフ・ダークス 1909年
[雑誌]
THE CURRENT OF THE WORLD 46冊
LIFE 10冊
TIME 2冊
HOUSE BEAUTIFUL 18冊
VANITY FAIR 8冊
WARD'S 60th ANNIVERSARY
NIPPON SPEAAKS (?) 21冊
[商品カタログ]
女性や子供向けファッションカタログなど 24冊
その他語学学習参考書